1998年9月21日(月)


土日が良い天気だと何か気分が悪い今日この頃である。それだけナキウサギに悪さをする人間がガレ場に多くなるからだ。しかしそこに出向くのはもっと気分が悪いのが問題だ。
今日のガレ場は満員御礼だった。下山後Nさんに聞いた話だが、先週NHKで然別を紹介する短い番組を放映したらしくて、ここのガレ場も画面に出てしまったらしい。そのせいもあるだろうし連休中日という事もあるだろうが、ガレ場入り口付近の道路は他支庁ナンバーで満杯、ガレ場も休日真っ青の大混雑であった。幸い、環境庁やら鹿追の役場やらに顔の効く(らしい)年輩のプロカメラマンが不埒者に注意しまくっていたので、一応平静は保たれていたようだ。やはりそれなりの人の注意はおいらのそれより威力がある。


ちなみにこの方、今月7日に、ヒマワリの種を播いていたオヤジに対して私より先に注意したライカ使いの方である。彼はその時の事を覚えていてくれて、話しかけて来てくれた。本来私が先に挨拶すべき所なんだけど、彼が来た時丁度私の口はコンビニおにぎり(田舎おにぎり筋子)で満杯で、会話不可能だったのだ。一時間ほど、プロから見た北海道の色々な動物の話を聞かせて貰えたのは楽しかった。

その後、一緒にガレ場のゴミ拾いまでしてしまったのだが、これには小一時間かかった。何せヒマワリやらカボチャやらピスタチオやらの殻は後から後から出て来てキリが無いし、ガラスのかけらなんかも大量に出てきて、結構おおごとだったのである。


帰ってきた前掛け君。だいぶん毛代わりしていて、既に「前掛け」では無くなっているが、拠点が同じだし、何より仕草が前掛け君であった。食われたのかと思っていたのだが、無事で良かった良かった。


前掛け君、岩の間の苔を食べる。冬ごもりの準備のため、大きい葉っぱは貯蔵するために巣に運ぶが、苔や草はその場で食べてしまう事が多い。


前掛け君ダッシュ。ナキウサギの動きはなかなかどうして素早くて、この写真もシャッタースピードは1/300秒位なのだが止まらない。


ナキウサギ盲腸糞写真家の私と致しましては、こういふ場面は撮り逃す訳には参りません。盲腸糞は、その場で肛門に口を付けて食べてしまう事も良くあり、これはウサギ科と同じだが、ナキウサギは盲腸糞を保存する事も多い。こうして天気の良い日に岩の上に盲腸糞をして乾かしておき、パリパリになったものを後で食べるのである。きっとその方が栄養があるのだろう。もしかしたら単に旨くなるだけかもしれない。なんかそっちの方がありそうな気もするなあ。


このガレ場、立入禁止にする計画もあったらしい。勿論人が増えすぎているからだ。登山道以外の立ち入りは勿論禁止だが、獣道入り口に立てた警告の立て札はすぐに誰かに抜かれてしまったらしい。そんなこんなで環境庁はそんな事を考えていたという事だ。しかしそうしたら、今度は周辺の、より貴重な環境に人が流れてしまう恐れがあるため、あえてこのガレ場の立ち入りを容認しているらしい。

ただしガレ場がこれ以上荒れてしまってもまずいので、その人は環境庁から登山道以外への侵入許可をもらっていて、合法的にガレ場の岩の上に登ることが出来るのである。で登って何をするかと言うと、ゴミ拾いなのである。それに私も徴用されたという訳で上記顛末になったのだが、初めて登った岩の上はとても広かった。しかし同時に撒き餌で無惨であった。岩の上は雨風ですぐに綺麗になってしまうので道から見上げるぶんには何も分からないのだが、そのゴミは全て岩の隙間に落ちていて、もう何年分も蓄積されているようなのだ。

苔のある所はダメだが、無い所を掘って見ると、何層にも重なってヒマワリの種が出てくる。岩の中の空気は0度近い温度なので腐らないのである。なにやら薫製のような色になっていて不気味である。餌付けでカラスやネズミが寄ってくるのは分かっていたが、ナキウサギの住環境に直接ここまで影響しているとは思い及ばなかった。やはりどんな反応が返って来ようが、撒き餌野郎は断固阻止しなければならないようだ。


そう言えば、今日は雪虫が孵化して早朝舞っていた。体長1〜2mm程度のごく小さい羽虫だが、ちょっと見は虫に見えない。胴体が純白に毛羽立ちしていてまるで小雪のようだ。とても美しい。
しかし実にはかない生き物で、人間なんかが不用意に触れると死んでしまうのだ。ふわふわに見える毛羽立ちだが実は粘着性で、手などで触るとくっついて飛べなくなってしまう。私の眼鏡にぶつかってきた奴もいて、すぐに動かなくなってしまった。
この雪虫、昆虫の世界では生態が未知の種らしい。たしかに、あんなひ弱でどうやって繁殖できるんだろう、とシロウトながらに思う。


こういうのを見ていると、本当に然別は貴重な動植物で満杯であると強く思う。


ナナカマドの実を食べるエゾシマリス。そこにある生き物を食べるのが自然な姿だ。これがヒマワリの種を食べていたとして、そんな写真になんの価値があるのだろうか。見せびらかして恥ずかしくないのだろうか。


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鹿川 伊知郎(Ichiro Shikagawa <shikapon@jiru.com>)
Julius Guilbert Trading Co.
Memuro, Hokkaido, JAPAN
Last Modified : Sep 22, 1998