1999年5月16日(日)


去年、仕事で某電子地図の表示部分を作ったんだけど、先日それが動かないと連絡があった。恐る恐る調べてみると地図データの仕様が変わっていてデータが読めなくなっている。あ〜バグじゃなさそうだ。


ソフトウェアの場合、完全にバグを無くしてから納品するってのはコストと時間の点で通常は不可能だ。勿論、航空機とか銀行オンラインとかはそれではヤバイのでほぼ完全にバグを潰すが、この作業には莫大な費用がかかる。従ってパソコンショップとかで販売されているような、個人や中小企業が買える程度の値段の業務ソフトやパッケージソフトでは、ある程度のバグは「必ず」あると思って間違いない。それが証拠に、普通パッケージソフトには「使用許諾契約書」なるものが付いているが、大抵は「現状有姿(AsIs)」でのみ提供される、と書いてある。中古車で言うところの現状販売である。要するに、バグがあっても文句言うなよ、という事である。その分値段を安く設定しているんだぞ、という訳である。(もっとも、それにしても値段だけの安定度すら無いのも結構見かけるが。某NTとか。)


さて問題なのは、ヤバイのと市販の中間にあるソフトだ。つまり完全にカスタムだが予算は渋い、というケース。中小ソフトハウスの作ってるのは大部分コレだ。うちで作ってるのもそうだ。この場合は納品時に客先による試験(検収といふ)があって、それにパスした事を客が認めて代金支払いになる。従ってその後はパッケージソフトと一緒で、本来「現状有姿」になるべきで、たとえ検収後にバグが発覚しちまった場合でも、修理代金は有料となると考えるのが普通の商品感覚だと思う。もし検収合格・不合格に関わらず無料修理するなら、検収なんて作業は不要でしょ?家電製品とかを考えて欲しい。客が検査できないからこその保証期間なのだ。しかし、ここからがソフトウェアの妙な所で、客は検収の事実を往々にして忘れてしまうのである。つまり現状販売で買った車が故障したから販売店にクレームを付ける、というようなマネを平気でするのである。


勿論、契約書に保証期間とか瑕疵(かし)担保責任とかが明記されてる場合は別だけど、その場合は代金を上乗せするからそれはそれで良いのね。でも費用の制約からカスタムソフトはそういう契約になっていない事が多い。客先作業契約なんか特にそうだね。でも客側は契約書なんて読んでないんだよね〜。でこちらが契約書を提示して有料を告げると、怒りだしたり、サービス作業を強要したりする所のなんと多い事か。私は幸いにして、そんな客を蹴っ飛ばしても食っていける立場なんで大丈夫だけど、諸般の事情って奴で泣き寝入りしなきゃいけないソフト屋さんは多いと思う。酷い業界である。


さて冒頭の地図の件だけど、散々偉そうな事書いちまった手前ちょいと気が引けるんだけど、実はスポット仕事なもんで契約書は作ってなかったりするのね〜。あはは。でも検収はしたんでバグでも何でも作業は有料、というのはちゃんと主張している。しかしそれを主張した上で、バグなら敢えて今回は無料でやるつもりだ。つまり「出血大サービス」という訳で、これはこれで営業の一環だったりする。バグじゃなくて地図データの仕様変更なら、バージョンアップ作業になるから有料。ああ世の中ディープだね。
(ちなみに、この仕事の発注元は無茶な作業の強要なんてしないんで、お付き合い長いんだね。やっぱりどんな業界も搾取一方じゃダメだってば。)


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鹿川 伊知郎(Ichiro Shikagawa <shikapon@jiru.com>)
Julius Guilbert Trading Co.
Memuro, Hokkaido, JAPAN
Last Modified : May 16, 1999